冬山での登山は、他のシーズンに登る山よりも危険度が上がります。
気温が低い中での登山になるのはもちろんですが、凍結した地面でのスリップ、転倒や滑落が予想されます。
そのようなときに頼りになるのが、普段の登山靴にバンドや金具を使って取り付ける登山用のかんじき、アイゼンです。
ペツルやエバニューといった様々なメーカーのアイゼンがありますが、どのようなタイプを選ぶのがいいのでしょうか。
ここではアイゼン選びに役立つ種類や装着方法などをご紹介します。
ペツルに代表されるかんじき・アイゼンとは
冬山や雪渓を行くような登山を計画しているのなら、アイゼンの携行・装着は必須です。
爪の付いた金属部分と、バンドや金具でできた靴に固定する部分の2つのパーツでできており、氷や溶結した道を歩くときに滑り止めの機能を果たします。
アイゼンとはドイツ語の「シュタイクアイゼン(Steigeisen)」から成る言葉で、アイゼンと呼びならわすのは日本のみだといわれています。
爪の部分は、ほとんどが鋼でできていて低温環境でも変質したり壊れにくいよう、ニッケルとあわせたものやチタン合金のものも存在します。
人気のあるペツルのアイゼンには、爪を取り付けるフレームにアルミニウムが使われていることが多く、アルミの持つ軽さと丈夫さにより、より軽く携行しやすい製品となっています。
またアイゼンのなかには、軽アイゼンといって合成ゴムや伸縮性の高い素材をバンド状にしたものに爪を取り付けるものもあります。
こちらは何より着脱が簡単なのが魅力ですね。
モデルチェンジしたペツルのアイゼン
多くの種類があるアイゼンの中でも、本格登山をするクライマーに人気があるのがペツル社製のアイゼンです。
ペツルは登山用ギアを多く手掛けるフランスのメーカーです。
ハーネス、ピッケル、ヘッドライトなど、登山をするうえで欠かせないアイテムを開発・製造し、多くのクライマーに愛用されています。
アイゼンもそれらのアイテムのひとつです。
ペツルのアイゼンは、バンドと金具を使った装着方法で外れにくく扱いやすい構造をしています。
これらの留め具やフレーム等の材質や形状を改良し、以前のものよりも約10%の軽量化に成功しました。
多くのギアを背負ってする登山において、アイテムの軽さを考慮することは必然です。
少しでも足元が重いと歩くたびに体力をそがれてしまいますので、軽く丈夫なアイゼンを携行・装着することのメリットは、より大きいものとなるはずです。
このほか、ペツルのアイゼンには、どんな靴に合わせやすい装着パーツや縦爪のポイントの数の切り替えができること、爪の長さを変えられるなどといった仕組みが組み込まれています。
靴に合わせるための固定パーツは、軽量化前の旧モデルにも取り付けることができます。
パーツの組み合わせの自由度が広がり、自分好みのアイゼンを作り上げることが可能です。
爪の数による種類
アイゼンは爪の数によって種類分けできます。
ほとんどが偶数本になっています。
爪の数が多いほど、過酷な道を歩くことに向いています。
軽アイゼンと呼ばれるものは大抵、爪の数が4~6本と少なく、見た目も簡素です。
固定方法はバンドを使ったものが多く、ほとんどの靴への装着が可能です。
軽アイゼンは、標高の低い山への登山や残雪期など、雪や凍結が少ないと予想される山の雪渓歩行に向きます。
爪の数が少ないため、雪が残っていた時のための保険のような意味合いでザックに忍ばせるという方もいるようです。
8本以上の爪が付いたアイゼンは、より安定感が増し、幅広い冬の低山で活用できます。
これより爪の数が多くなると、本格的な冬山登山や縦走登山に必携のアイゼンということになります。
つま先に前方に向けて爪が突き出た10本爪や12本爪がついているタイプは、氷や雪の斜面で蹴り込むと、しっかりと足場を固定することができます。
ペツル製のアイゼンは、爪数が10本からの本格的なタイプがほとんどです。
バンド式・ラチェット式など装着方法の違い
アイゼンを靴へ取り付ける方法は、大きく3種類に分けられます。
基本的に、靴の形状に合ったアイゼンを選ぶのですが、靴によってはつけられないアイゼンがあります。
まずは、自身の持つ登山靴が低山やハイキング向けのものなのか、本格的な登山もできるタイプなのかを確認します。
アイゼンを装着することを前提とした靴は、つま先とかかとの部分にコバと呼ばれる留め具をかける構造になっています。
それではタイプ別に詳しくみていきましょう。
●ベルトタイプ
バンド(紐)を使って靴に固定するタイプです。
バンドを引き締めて装着するので、ほとんどの靴に対応できる構造です。
紐をまとめることができるので、使わないときはコンパクトに収納できる利点もあります。
紐を締めて固定するので、甲の柔らかい靴には向きません。
無理をして装着すると、歩くうちに血行障害をおこして凍傷を起こす場合もあります。
●ラチェットタイプ
ラチェットバックルで固定します。
軽い力で操作できるので着脱が簡単です。
締め具合の微調整も素早くできます。
バンドタイプと比較するとバックルの分、嵩張りやすいのが難点です。
●ワンタッチタイプ
コバがついた靴に対応したアイゼンです。
金具とレバーが付いていて、靴との相性が良ければスムーズな着脱が可能です。
このワンタッチタイプとバンドを組み合わせた、外れにくい構造を採用しているアイゼンもあります。
グリベルやペツルなどの本格的な冬山に向いたアイゼンに多くみられます。
ペツルは本格向け!爪数やバンド式などタイプを理解しアイゼンを選ぶ
アイゼンは、モンベルやペツル、エバニューなど、様々なメーカーが製造・販売していますが、特定のメーカーのみを使うことはおすすめしません。
アイゼンを選ぶときには、まず、どのような山へどのシーズンに行くのかを考えます。
地域によっては低い山でも気温が上がらず傾斜が急で積雪が多いこともあります。
地形や雪の積もり方を予測してアイゼンを決めましょう。
基本的に低山の爪数が少ない軽アイゼンが向いています。
一方、3,000mを超える冬山での登山には前爪にあるタイプが必要です。
標高の高い山だと春になっても雪が多く残っていますから、低地が暖かくなっても気を抜かず、厳冬期に使用するタイプのアイゼンを携行するのが無難です。
登る山を想定すると同時に、靴についても考えてみましょう。
登山に行くときに履いていくのは、どのような靴ですか?
前項でも触れましたが、登山靴のなかでもアイゼンの装着に向かないタイプがありますので注意しましょう。
装着のタイプで選ぶ方法もあります。
ワンタッチタイプはバンドやバックルで締める作業がないため、装着が簡単にできますが、履いている靴との相性で外れやすいこともあります。
アイゼン選びはネットで情報を集めて購入するのも良いのですが、実際に実物を見て選ぶことをおすすめします。
ショップへ靴を持参すると、必要なタイプが具体的にわかります。
また、ショップのスタッフに疑問点が聞けたりアドバイスをもらえることもありますので、山の知識を増やす良い機会になるでしょう。
バンド式より便利?チェーン式アイゼン
たくさんのアイゼンがある中、最近ではチェーン式アイゼンというものが増えてきました。
締め込む必要のあるアイゼンを使っていると、慣れているとはいえ着脱に時間がかかります。
低地などで雪渓が切れた時にアイゼンを外す必要があるのですが、着脱の面倒さから、アイゼンを履いたまま岩場を歩いたりしてしまう方がいます。
当然歩きにくくなりますし、前爪のあるタイプだと衣服に引っ掛けて破ってしまったり足を傷つけることもあり危険です。
その点、チェーン式のアイゼンは素早く着脱できるので、このような危険を回避することができます。
装着方法は簡単で、靴下を履くようにチェーンのついたラバーを靴の上からかぶせるように取り付けます。
バンドタイプやラチェットタイプのように装着時に締め込む手間がありません。
簡単に取り外せてコンパクトに収納もできます。
ペツルのような本格的なアイゼンには及ばないまでも、低山での設計歩行や春先の残雪のある山での登山には十分対応しますので、ひとつ持っておくと良いかもしれません。
靴やグレードに合ったアイゼンで登山を楽しもう
冬の山を登るにはアイゼンが欠かせません。
正しく選んで使えば、厳しい道でも安全に行くことができます。
たくさんの種類がありますが、自分の足となり、登山の助けとなるものですのでじっくりと選べるといいですね。
自分に合ったアイゼンで、雪渓歩き、雪山歩きを楽しんでください。