誰も滑っていないポイントを目指して自分の足で山を登っていくバックカントリーには、登山と自然の中を滑走する楽しさを持ち合わせています。
毎年冬の時期は、新雪が降り積もった山々にバックカントリーを楽しむ人が訪れます。
数ある山の中でも飛騨山脈に連なる立山では、11月の初旬から滑ることができる人気のスポットになっています。
バックカントリーの魅力
バックカントリーとは、ゲレンデではなく全く管理されない自然の中を、スキーやボードで滑走するウィンタースポーツのことです。
日本では、多くの山が11月を過ぎてから新雪が積もるため、その時期になると愛好家たちが山へ入ります。
山岳エリアをめざしていくことが主で、滑走するポイントまでは自分の足で登ることが基本となります。
大自然の中を自力で登った先にある景色、誰も踏んでいない新雪、それらすべてを感じながら滑ることがバックカントリー最大の魅力です。
経験者にしかわからない、パウダースノーの上を滑る心地よさは格別です。
自分で登って滑るため、バックカントリーでの1本はとても貴重なものです。
その選んだポイントやラインのなかで見える自然の景色に魅了されるボーダーやスキーヤーが後を絶ちません。
また、人の手が入らないエリアならではの雪質の変化を攻略することも魅力のひとつです。
これほどの魅力をもつバックカントリーですが、挑戦するには冬山登山の知識と最低限の滑走レベルが必要になります。
特に、滑走のレベルが不十分で、スピードコントロールが出来ないと予想外の事故を招くこともありますので、バックカントリーをやってみたいという方は、ゲレンデでの滑走の熟練度を挙げてから挑むようにしましょう。
次項からは、バックカントリーの人気エリアである立山の魅力と、バックカントリーに挑戦するときの注意点などをご紹介します。
立山でのバックカントリーは11月がおすすめ
バックカントリーができる山は全国にあります。
中でも、立山の室堂はバックカントリー愛好家の中ではとても有名なエリアです。
ハイクアップには、アルペンルートを利用して山小屋のある室堂を目指します。
立山では、他の山ではまだまだ雪が十分積もらない10月の中旬頃からすでに積雪があり、11月ともなれば室堂のある標高2,400m付近にはたっぷりの新雪が降り積もっています。
北アルプスを望むことができるこのエリアは、雄大な景色の中で滑ることができるのでとても人気があります。
ただし、全国でも有数の豪雪地帯でもある立山は、ひとたび天候が変わると猛烈な吹雪に見舞われ、視界はおろか平衡感覚さえも失うホワイトアウトの世界になってしまいます。
無理なチャレンジはせず、慎重に挑むことも立山でのバックカントリーを楽しむポイントのひとつです。
室堂へアクセスできるアルペンルートは、毎年11月末から4月中旬まで閉鎖されますので、秋と、雪解けが始まる春に楽しめるエリアになります。
雪解けの遅い年によっては、6月ごろまで雪が残っていることもあり、バックカントリーシーズンの最後まで楽しむことができます。
11月オープン!日本のバックカントリーは立山で始まり立山で終わる
バックカントリーは山岳スキーとも呼ばれ、積雪の多い山ならどこでもできるウィンタースポーツです。
おおよそのシーズンは、各山で積雪が始まる10月~11月の秋ごろから、雪解けが始まる5月ごろまでです。
中には入山規制がある山もあるので、事前にしっかり情報を得ることが大切です。
バックカントリーが楽しめる山の中で、最も早い時期に滑ることができるのが立山になります。
愛好者たちは、シーズンが来ると立山へと向かいます。
まずは、その年の新雪の感触を立山で確かめるのです。
そして、どこよりも遅い時期まで滑ることができるのも立山です。
ゴールデンウィークを過ぎ、平地では暑ささえ感じられる6月ごろまで雪が残っていた年もあります。
それゆえに、日本のバックカントリーは「立山で始まり立山で終わる」と言われています。
ちなみに、どの山へ行くときも同様に、各エリアにはガイドがついてくれるツアーが存在します。
滑走に慣れ、冬山登山を何度経験していても、冬山へ単身で挑むのはとても危険です。
安全に行って帰ってきてこそのバックカントリーであると心得て、そういったツアーをできるだけ利用するようにしましょう。
出発前に装備品をチェック
初めてのバックカントリーに挑戦するなら、装備も完璧にしておきたいですね。
バックカントリーでは、滑走よりもハイクアップ(登山)に費やす時間が多くなります。
貴重な1本を滑るために、厳しい冬の山を登るのです。
そのため、持ち物やウェアが、通常のゲレンデで滑るときとは異なります。
まず、ウェアですが、基本的に登山向けのものを選びます。
登ると汗をかきますが、11月は季節の変わり目でもあり急な天候悪化なども予想されますので、あまり薄着で行くことはおすすめできません。
長い時間登りますから、透湿機能のついたものを着ていくと快適です。
そのほか、携行食やテント泊をする場合には、テントやシュラフが必要です。
立山ではテント泊で数日間を過ごしながらバックカントリーに挑む強者もいます。
板やボードも含め、全て自分で背負って移動しますから、持っていく荷物は軽量化を徹底しましょう。
また、バックカントリーでは新雪の上を歩いたり滑ったりしますので、登山時に雪に埋もれないようにしなければなりません。
スキーでいくなら、板を付けたまま歩けるようツアーピンディングを使いましょう。
これでかかとをフリーにすることで、足が動かしやすくなります。
ボードの場合、ボードはバックパックにしっかり固定し、スノーシューをブーツに付けて歩きます。
両手にはストックを持っていると、バランスがとりやすく歩きやすくなります。
いざバックカントリー!楽しむための注意事項
冬の山で最も恐ろしいのは、雪崩に遭遇してしまうことです。
11月を過ぎると立山に限らず、どの山も大量の雪が降り、雪崩が起きる危険性が高まります。
雪崩を避けるためには、30度以上の傾斜面に注意する、24時間以内に12センチ以上の積雪があった場合には入山しないなど、注意するポイントがあります。
それでも、いつ起こるのか予測が付かないものですので、冬山に入るときには遭遇してしまった時のことを想定して準備する必要があります。
バックカントリーでも、雪崩に遭った場合に必要なアイテムとして、「ビーコン」「ショベル」「プローブ」の携行が必須です。
これら3点を「アバランチキット」「アバランチセーフティキット」と呼びます。
特に、ビーコンは必須アイテムです。
これは雪崩に巻き込まれて埋没したときに、電波を発信します。
その電波を仲間のビーコンで受信してもらい、助け出してもらうための手がかりとなります。
ビーコンは、ポケットなどではなくウェアを脱いだ下に付け、体から離れないようベルトで固定し、常に送信状態で身に付けておきます。
雪崩の勢いは、バックパックやジャケットなどのウェアをはぎ取るほど強いものなので、必ず体に密着させて装備する必要があります。
プローブは、ビーコンで特定した地点に刺し込み、雪に埋没した人がどの深さにいるのか探るためのものです。
プローブで確認ができたらすぐにショベルで掘り出すことになります。
人の管理のない山岳地帯は、緊急時の救助にもすぐに応じてもらうことが難しいため、こうした自分たちでできる最大限の対策が必須となります。
11月から開始されるガイド付きツアーがおすすめ
いくつもの山を歩き、バックカントリーに慣れているといっても、素人であることには変わりありません。
道中の安全や緊急時の対応など、全て習得するには何年も訓練しなければなりません。
山に関することを独学で学ぶことは難しいため、レクチャーしてくれるバックカントリーガイドと一緒に出掛けることをおすすめします。
ガイドと一緒なら、山でのマナー・疲れない歩き方・ビーコンやショベルの使い方を教えてもらうことができます。
なによりも、安心してバックカントリーを楽しむことができるでしょう。
立山では11月に入ると、バックカントリーのツアーの詳細が公開されます。
バックカントリー初心者でも不安なく参加できる内容になっていますので、できるだけツアーに参加して道具の使い方や歩き方などを少しずつ身に付けいていきましょう。
ツアーに参加すると、ビーコンなどの高価な機器をレンタルできる場合もあります。
冬山には必ず必要になるものですので、貸してもらえるか買う必要があるのかを事前にチェックしておきましょう。
最後に、山にはいるときは「入山届」を忘れずに提出しましょう。
バックカントリーの魅力は自然と一体になれること
じっくり登った後の景色、やっとたどり着いたという達成感、空を飛ぶかのような滑り心地。
立山をはじめ、多くの山で挑むバックカントリーにはたくさんの魅力が詰まっています。
雄大な山々を望みながらの滑走は格別のものです。
山を体験しに、バックカントリーに挑戦してみませんか?