キャンプや登山などの野外活動での必需品となるナイフ。
中でもマルチツールでは体表格ともいえる、ビクトリノックスのトラベラーが挙げられます。
トラベラーは持ち歩きや扱いに便利なアイテムですが、それを所持・携行するにあたり気になるのが銃刀法です。
ここではビクトリノックス製のトラベラーを例に挙げ、銃刀法がどのような法律なのか、またその他に注意するべき取り決めや法律があるのかみていきます。
アーミーナイフのひとつ「ビクトリノックス・トラベラー」
マルチツールとして有名なビクトリノックスのトラベラーには、いくつかのモデルが存在します。
しかし、どれも基本は同じ構成となっていて、アウトドアでは非常に役立つアイテムです。
銃刀法とアウトドアで使用するナイフの関係について述べる前に、この記事で例として取り上げるナイフ「トラベラー」について詳しくお伝えしていきます。
トラベラーに含まれるツールは全部で15あり、基本的には以下のような構成になっています。
●VICTORINOX(ビクトリノックス) トラベラー
・ラージブレード(大刃)
・スモールブレード(小刃)
・コルクせん抜き
・カン切り
・マイナスドライバー(小)3mm
・せん抜き
・マイナスドライバー(大)6mm
・ワイヤーストリッパー
・リーマー(穴あけ)
・キーリング
・ピンセット(毛抜き)
・ツースピック
・はさみ
・マルチフック
・ソーイングアイ(糸穴)
先にモデル違いがあるとお伝えしたのは、ツールの中のコルクせん抜きがプラスドライバーになったものが「VICTORINOX(ビクトリノックス) トラベラーPD」、トラベラーPDにペンチが付いたものが「VICTORINOX(ビクトリノックス) PLIトラベラーPD」になります。
初めて手に入れるマルチツールとしては、ツールの数が豊富で手に馴染みやすく最適なアイテムだと言えます。
銃刀法とは刀剣に関する法律
アウトドアで使うナイフの購入を考えた時に気になることが、刃物や銃の保持に関わる銃刀法という法律です。
メディアを通してその名前を耳にすることが多い法律ですが、実際はどのような内容なのでしょうか。
まずは銃刀法について簡単にですがご説明します。
銃刀法とは銃や刀剣といった「武器」に該当するものの所持や使用を取り扱う法律です。
ここでの刀剣とは刃渡り15㎝以上の「刀」「槍」「なぎなた」及び、刃渡り5.5㎝以上の「剣」「あいくち」「飛び出しナイフ」を指します。
これに該当しないものは刀剣ではなく刃物に分類されるため、銃刀法のうえでは所持してよいものとされます。
しかし、銃刀法では刀剣でない刃物でも、刃渡り6㎝を超えるナイフ等は携帯してはならないと定められています。
つまり、6㎝以上の刃渡りのナイフは所持は認められるが持ち歩きは認められないということになり、違反した場合は2年以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。
刃物に関する法律は銃刀法だけではありません。
軽犯罪法という法律により、銃刀法で禁止されない刃渡り6㎝以下の刃物の携帯について、同法が適用になる場合があります。
本記事で取り上げている、ビクトリノックス・トラベラーのようなマルチツールは銃刀法や軽犯罪法とどのように関わってくるのか、次項で詳しくご説明しましょう。
銃刀法のほかに知っておく法律・条例
前項では刀剣や銃、刃物に関わる法律について簡単にお伝えしました。
では実際にキャンプでビクトリノックス製のトラベラーのようなマルチツールを使いたい場合には、どのように法律が関わってくるのでしょうか。
まずトラベラーの刃渡りですが、6㎝以下に設計されており、なおかつ折り畳み式でロックのかからないものであるため、銃刀法によるところの「所持」や「携帯」には抵触しません。
しかし、状況によっては軽犯罪法違反に当たる場合があります。
軽犯罪法とは、様々ある軽微な秩序を乱す行為に対して拘留、科料の刑を定める法律です。
トラベラーは銃刀法での刃物には該当しませんが「刃物に関わらず人の体に重大な害を加えることができ得る器具」という軽犯罪法の定義には該当する可能性があるのです。
そのような器具を正当な理由や目的なく隠し持っていた場合には、軽犯罪法違反となり拘留または科料に処せられます。
軽犯罪法には「隠して携帯していた者」という記述があるため、トラベラーのようなナイフでも小さなものをベルトに付けたり、キーホルダーなどにして公然と携帯していれば同法に違反しないということになります。
しかし一方で、多くの都道府県では迷惑防止条例として「公共の場所や乗り物で公衆の不安を覚えさせるような方法で人に危害を加えるようなものを携帯してはならない」との規定がされており、一概に先述の携帯方法が合法であるとはいえません。
銃刀法によるところの「所持」、軽犯罪法の「携帯」の定義
キャンプで使うなど、使用目的が明確であればトラベラーなどのナイフを持ち歩くことが可能です。
しかし、そのような理由もなく日常的に身に付けておくことはできません。
ナイフを持ち出す時に注意しなければならないのが「所持」「携帯」の意味です。
「所持」とは「自己の支配し得るべき状態に置くことと」あるように、自分の手元にあり使える状態にあることを指します。
保管する、身に付ける、持ち運ぶことが含まれ、さらに他人のナイフを預かる場合も自分がナイフを「所持」したということになります。
「携帯」とは所持者が手に持つ、身に付ける、またはこれに近い状態で携えることです。
日常生活を営む自宅内、居室の中で手に持った状態は「携帯」とは言いません。
しかし注意しなければならないのが、車の中にナイフが置かれた状態の場合です。
車中は日常生活をする場所ではありませんし、移動を目的としたものです。
車の中にキャンプで使ったナイフなどの刃物を置き、そのまま取り出し忘れていると、刃物を「携帯」しているとみなされてしまいます。
銃刀法に触れることのないビクトリノックスのトラベラーであっても、きちんと取り扱わないと軽犯罪法や迷惑防止条例に抵触してしまう可能性がありますので十分注意しましょう。
法律に触れないために…ビクトリノックス・トラベラーの扱い方
もともと携行しやすく設計されているビクトリノックスのトラベラーですが、使用目的がしっかりしていた場合でも持ち運びに注意が必要です。
銃刀法に触れない刃物だったとしても、人の目に触れるようなところへ付けたりして街を歩くと職務質問の対象となってしまう場合があります。
トラベラーの場合、専用ケースがありますがベルトに取り付けられる形をしていることもあり、つい、身につけたくなってしまいます。
しかし、護身やファッション感覚での携帯はもちろん目的なく刃物を身に付けることは許されていません。
そのことをしっかり頭に入れておきましょう。
トラベラーの持ち運び方法としては、
・ケースがある場合にはケースにしまう
・ツールボックスに入れすぐに取り出せないようにしておく
・調理器具など使う目的が分かるものと一緒にしまう
このような点に留意しましょう。
キャンプサイトなどの目的地に着くまでは、簡単に取り出せないようにしまっておくのが無難です。
登山など、自分で荷物を背負っていくときにも、公共交通機関や街中を歩く場合にはザックの中にしまっておきます。
人の目に触れるような場所に身に付けることは避けましょう。
これらの対策は法律に触れないためでもありますが、自分の身の潔白を示す行為でもあります。
ビクトリノックス・トラベラーを所持中に職務質問されたら
刃物には銃刀法や軽犯罪法、都道府県が定める条例など様々な取り決めが関わっています。
ここまでお伝えしてきたことを念頭に置き、ビクトリノックス・トラベラーをはじめとしたマルチツールやナイフの所持や持ち運びに注意していたとしても、街中で警察官に声を掛けられることもあります。
自分は潔白のつもりでいても、職務質問の対象となってしまう可能性があることは避けられません。
そういった場合でも正しい知識を身に付けて置き、しっかりと対応することが大切です。
職務質問をするためには、警察官職務執行法2条により、
(1)異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して、何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由があること
(2)既に行われた犯罪や犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められること
と定められています。
さらに所持品の検査は許されていることですが限度があり、また本来ならば証拠品の捜索は裁判官の令状が必要です。
このように令状のない所持品検査には限界があるため、検査自体を否認することができます。
強引に所持品の提示を求められた場合でも、確かな理由が無ければ見せる必要はないのです。
そして、そもそも刃物の携帯は明確な理由をもってするべきですし、そのように行動していれば、街中で警官に声を掛けられても所持品検査を否認する正当性をうったえることができます。
刃物を手に入れるなら知識ももって扱う
アウトドアに欠かせないナイフですがその取り扱いには注意が必要です。
刃物についての法律や取り決めは、ナイフを手に入れたなら絶対に知っておくべき事柄です。
何かトラブルが起きた後で「知らなかった」では済まされません。
ナイフと一緒に、正確な知識も得ておきたいものです。